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Sokoliar Tomáš (Král sokolu) 鷹使いトマーシュ

スロバキア・チェコ映画 (2000)

もうすぐ34歳になるスロバキアの監督・俳優・舞台演出家ブラノ・ホリチェクにとって、少年時代の輝かしい名作。Jozef Cíger-Hronskýの1932年の子供向け小説『Sokoliar Tomáš』を大幅に脚色して映画化したもの。そして、そのヒーロー、トマーシュを熱演して注目を集めたのが14歳のブラノ。前作の『Všichni moji blízcí(大好きだった人たち)』では、ユダヤ人の役なので髪を染め、音楽好きということで運動能力が低く、ブラノらしさは演技の上手さだけだった。しかし、この映画では、大好きな乗馬をフルに活かし、結構危険なスタントも自らこなし、動物と意思疎通ができるという設定なので、鷹を始めとしネズミに至るまで動物と親しく接している。子役が、これほどカッコ良く活躍する映画は 他にない。それを、輝くような金髪の乱れ髪の美少年が演じているのだから、注目されて当然だろう。IMDbには書かれていないが、この映画はチェコでは高く評価され、ズリン国際子ども映画祭、「Novoměstský hrnec smíchu」というコミカル作品の映画祭、オタ・ホフマン子ども映画祭(以上、チェコ国内)、ドイツのケムニッツ国際子ども映画祭、南米コロンビアのカルタヘナ国際子ども映画祭で受賞している。あくまで子供向きではあるが、ブラノの魅力だけで観るに耐える作品になっている。なお、この映画の題名は、2種類が出回っているので、ここでは原作と同じものをメインとし〔スロバキア系に多い〕、同じ程度に流布しているもう一つの題名をカッコ内に表示した〔チェコ系に多い/意味は「鷹の王」〕

マチエ〔Matej〕王の鷹が出てくるが、これはハンガリー王マーチャーシュ〔Mátyás〕一世(1443-90)のこと〔版図は現在と違い、スロバキアも含まれていた〕。王が生きている間に王の紋章を与えたので、物語は15世紀後半にあたる。封建領主の一人バラドールの馬飼いを父に持つトマーシュは、動物と言葉が交わせる特殊な能力を持った少年。だから、動物達とは友達のように暮らしている。そんな楽しい生活は、狼に襲われそうになった馬を守るため 父が死んでしまったことで一変する。トマーシュの祖父は、物乞いに転落するのを避けようと城主に直訴に行くが、それはちょうど、城主の次女フォルミナの婚約式典の日だった。祖父に同行したトマーシュは、偶然が重なって、暴れ出した馬の牽く「城主の治療用の泥の樽」の中に落ち、そのまま宴会の場まで運ばれて泥と一緒に投げ出される。泥まみれのトマーシュに同情したフォルミナは、その日が、2人の誕生日だと知ると、トマーシュと一緒に泥の上で踊る。そして、フォルミナの好意で、馬飼いも続けられることになる。映画には、あともう2人、重要な人物が登場する。1人は高潔な元・鷹使いの長ヴァガン、もう1人は、陰湿で嘘付きでヴァガンの後釜を狙うイーヴェル。トマーシュは、イーヴェルの反感を買い、追われる身となり、ヴァガンの小屋に匿われる。ヴァガンが、トマーシュの助けを借りて新しい鷹を訓練し、それを城主のところに持って行くと、イーヴェルはこっそり鷹を毒殺し、ヴァガンの腕が落ちたせいにする。そのくせ、鷹野の巣を荒らしているところをトマーシュにみつかり、ヴァガンに強く非難されると遺恨を募らせる。破局は、イーヴェルが、ヴァガンがいる限り、自分は鷹使いの長になれないと感じた時に訪れる。彼は、フォルミナと結婚をするために城を目指していた伯爵家の跡継ぎオストリクを、誘い出して拉致・監禁する。そして、その罪をヴァガンになすりつける。一緒にいたトマーシュも逮捕されるが、それまでに親しくなっていたマチエ王の鷹の協力を得てオストリクを救い出し、絞首刑になる寸前だったヴァガンの命も救う。

ブラノ・ホリチェク(Braňo Holiček)は、1985.8.14生まれ。映画の撮影は1999年夏とあるので、ちょうど13歳から14歳になる時だ。ブラノが生まれた当時は、まだチェコスロバキアだった。国は1993年にチェコ共和国とスロバキア共和国に分離する。ブラノは、その頃まだ生まれ故郷のコシツェ(Košice)にいた。ブラノは小さい頃から歌が好きで、芸術小学校(ZUŠ)に入る。1997年には、有名なミュージカル『オリバー!』のコシツェ公演での主役3人の1人に選ばれ、6月14日の初演以来1年半にわたって月8回演じ続けた。1998年には、『Kik Flip(キックフリップ)』というCDを出す。ブラノが、スケボーが好きだったからだ。この中には、12曲納められているが、一番私が好きな曲『Slepá Flautistka(盲目のフルート奏者)』は、こちらのサイトで聴くことができる→( https://www.youtube.com/watch?v=AMCxzE1j9V8)。1999年の夏には、最初の映画『Všichni moji blízcí(大好きだった人たち)』に出演、一族で唯一生き残る少年をけなげに演じて印象に残った。そして、この映画。その後は、『Ako divé husi(野生のガチョウのように)』というTVシリーズに少しだけ顔を出し、翌年の『Kruh(リング)』にも脇役で出ている(鳥を観察する少年、右のピンボケ写真)。その後、ブラノは2006年にプラハ音楽院に、2人しかいないスロバキア人として入学。音楽院では、チェコ語を強要された。最終的には、DAMU(プラハ舞台芸術アカデミーの劇場学部)を2012年に卒業し、演出家としての道を歩み始める(同年、若手演出家としてAlfréd Radok Awardsを受賞)。演出家としての活動を問われた2017年2月の長いインタビュー( https://www.divadelni-noviny.cz/brano-holicek-sebevedomi-neni-pycha)は、興味があればどうぞ。ブラノが監督して2018年5月にリリースされたショートムービー『Na hory(山へ)』は、自分の裸をスマホで自撮りし、SNSにアップしている15歳の少年(Lukás Vertát)が、予想外の結末を迎えるショッキングな傑作。YouTubeでも観られるが、高画質なのは→( https://dvojka.rozhlas.cz/brano-holicek-byl-jsem-otravny-herec-proto-jsem-si-stoupnul-za-kameru-7585207〔ページの下の方に “Na hory (film Seznam se bezpečně)” とあるところ〕。2019年には新作『Maturant(卒業)』を発表している。右の写真は、上記のサイトに載っている2018年のブラノだが、面影がすごく残っているのは凄い。


あらすじ

領主バラドールの前の鷹使いの長だったヴァガンが、訓練している鷹に、「バラドール様に、今でも一流の鷹使いだと、見せてやろう。明日、城に 連れてくぞ」と声をかける(1枚目の写真)。すると、元、ヴァガンの下で訓練を受けていて芽の出なかったイーヴェルという下司な策士が、雇った無頼漢3人にヴァガンを襲わせ、訓練の終わった鷹を盗む(2枚目の写真、黄色の矢印はヴァガンの訓練した鷹、赤の矢印はバレないようマントを被ったイーヴェル)。ヴァガンは、石で殴られて昏倒する前に、腰ベルトに挟んでいた小型ナイフをイーヴェルの左頬に投げつける〔証拠のケガが残る〕。画面は変わり、領主バラドールの城が空撮で映し出される(3枚目の写真)。この城は、スロバキア南部にあるクラスナ・ホルカ〔Krásna Hôrka〕城。14世紀に建てられた立派な城だが、2012年5月11日の大火で大きな被害をこうむる(4枚目の写真)〔3500万ユーロ(≒40億円)をかけて再建・修復が進み、2023年には一般公開される予定〕。イーヴェルが盗んできた鷹を放った領主は、「素晴らしい。ヴァガンの鷹のようだ」と褒める。「1年かけて訓練致しました。御前のためです」。そして、「ヴァガンは、もう老いぼれです」と付け加える。領主は、「黙れ!  聞きたくも ない!」と、誹謗を嫌う。「噂を 申し上げたのです、御前」。「狩の折り、かの有名なマチエ王の鷹を見た。あの鷹のためなら、ドナウの城を手放すぞ」。なお、原作では、主人公のトマーシュ〔Tomáš〕は同じだが、ヴァガン〔Vagan〕でなくヴァルチアク〔Varčiak〕、バラドール〔Balador〕でなくバラーシュ〔Baláž〕になっている。
  
  
  
  

一方、こちらは馬飼いの貧しい住処。領主バラドールの馬を飼育するのが役目だ。その息子がトマーシュ。20頭あまりの馬の群れの先頭馬に乗って、馬たちに野を駆けさせている。父は、「明日、鹿毛色の奴に鞍を置いてみよう」と話す。鹿毛色の馬とは、牧場内で一番いい馬。その時、妹のアガータが、「父さん、トマーシュ、お昼よ!」と呼ぶ。丸太を半分に割った食卓では、既に祖父が座って食事を待っている。「急ごう、爺様が腹ぺこだ」。妹が、3人の皿を並べる。大皿に入った粥のようなものが、テーブルに持って来られた時、鹿毛の馬がいななく。それを聞いたトマーシュは(1枚目の写真)、馬の囲いまで走って行き、鹿毛の馬の下に入ると、「ほら、静かに」と声をかける(2枚目の写真)。そして、「ちゃんと、分かってる」と言いながら、右前脚を抱えて蹄の横から何かを引き抜く(3枚目の写真。矢印)。「もう、安心だ」。
  
  
  

父は、祖父に、「無茶な奴だ」と言い、トマーシュが席に戻ると、「肋骨を折ったら、どうする?」と批判する。祖父も、「鹿毛には近づくな。あいつは危険だ」と警告。「トマーシュ、二度と やるな」(1枚目に写真)。無理解な言葉に、トマーシュは、手に握っていたものを父に見せる。それは、血のついたトゲだった。父は、離れて食べている部下にトゲを見せる。アガータは、トマーシュの横に行くと、「トゲのこと、なぜ分かったの?」と訊く。「鹿毛が痛がってた。お前つんぼなのか?」。「みんな、つんぼなの。トマーシュ以外はね」(2枚目の写真)。そして、馬のいななき声を何度も真似する。うんざりしたトマーシュは、足元にいたリスをつかむと、口笛で話しかけてから放す。リスは近くの松の木に登って行く。「何て 言ったの?」。「お前がいななき続けたら、松かさをぶつけてやれ」。そう言うと、食べるのをやめて走り去る。アガータが、トマーシュの背中に向かって、いななき声を発し、「嘘つき!  でたらめ ばっかり!」と叫ぶと、リスが咥えて落とした松かさが頭にぶつかる(3枚目の写真、矢印)。
  
  
  

トマーシュは、そのまま野原に行く。すると、雛の鳴き声が聞こえる。トマーシュは、さっそく、草原の石をどけ、中にいたミミズを2匹手に取る〔本物〕。そして、鳥の巣に近づいて行くと、愛おしそうに見た上で(1枚目の写真)、ミミズを食べさせる。すると、近くの木に、カラスがとまる。雛を狙っている。トマーシュは、投石紐をぐるぐる回し(2枚目の写真)、石でカラスを追い払う。短いが、好きなシーンだ。
  
  

夜。父や部下が焚き火の回りに集まっている。父は、長い鞭(むち)の最後の仕上げをしている。部下の1人が、「その鞭 貸してくれたら、あの鹿毛を羊みたいに…」と荒っぽいことを言いかける。父は、すかさず、「あの馬に触れたら、バラドール様に鞭打たれる。牛40頭と交換した馬だ」と戒める。「オストリクが、婚礼祝いにもらう」。祖父は、「麗しのフォルミナと、あの馬に乗るのさ」と言う。それを聞いたトマーシュは、「フォルミナって?」と訊く(1枚目の写真)。祖父は、「お前より1つ年上で、産まれた日は同じ。お前が産まれた日、お城では、1歳の誕生祝賀会が開かれてた」と説明する。「じゃあ、お姉さんみたいだ」。口の悪い妹は、「あたしは、あんたの お婆ちゃん…」と、その発言をバカにし、トマーシュから「黙れ」と言われる。部下の1人が、「聞いた話じゃ、バラドールは、鷹と城を交換するんだと」と、言って笑う。もう1人が、「金の紋章を付けた鷹だろ?」と受ける。祖父は、「その鷹は、ハンガリー王の宝だった。王の命を助けたからじゃ」(2枚目の写真)。父が、後を引き継ぐ。「確か、こんな話だ。ある日、マチエ王は湿地帯で道に迷い、馬と共にさまよった。溺れそうになった時、1羽の鷹が道を教えてくれた。王は、お礼に王の紋章〔kráľovským erbom〕を授けた」。ここまで、来て、トマーシュが、「そして、自由にしてやった」と口を挟む。「何で、知ってる?」。「想像しただけ。誰でも、そうするでしょ?」(3枚目の写真)。
  
  
  

父は、「お前も、もうじき誕生日だな。ほら、プレゼントだ」と言い、完成したばかりの鞭をトマーシュに贈る。トマーシュは大喜びで鞭を受け取ると、テーブルの上に立って、鞭を振るおうと構える。その時、狼の遠吠えが聞こえる。「狼だ! 狼が来る!」。父は、すぐ、「大きな火を 焚け。追い払うんだ」と部下に命ずる。焚き火に薪を継ぎ足すと、松明を3本作り、「お前達、左へ行け。俺は、右へ行く」と、火で追い払おうとする。トマーシュには、「焚き火から、動くな!」と命じる。3人は馬の囲いの周りを、松明を持って回る。トマーシュが鞭を持って何かしようとすると、愚かな祖父が、「もっと、薪を!」と命じる〔薪はすぐ近くに置いてあるので、自分で入れたらいい〕。狼の数は10匹弱。ここで、父がドジを踏む。窪みに足を取られて転倒し、松明が消えてしまう。暗がりにいた狼が一斉に襲いかかる。トマーシュは鞭を振り回し(1枚目の写真、矢印は鞭の先端)、地面を強く打つ。そして、狼のような吠え声をあげる(2枚目の写真)。狼はすべて逃げ去る〔最初から、松明など使わずに、トマーシュに任せればよかった〕。父の様子を見に行ったトマーシュは、狼に噛み殺された父を見て、「父さん…」(3枚目の写真)と言ったきり、両手で顔を覆って泣き出す。
  
  
  

数日後、新しく作られた木の墓碑の前で、トマーシュとアガータは父に別れを告げる(1枚目の写真)。「母さんは、もう 一人じゃないね」。「ああ、一緒だな…」。そう言うと、トマーシュは、墓地から走り出し、丘の斜面に出ると、何度となく鞭をふるう(2枚目の写真)。無力だった自分に対する怒りか? 父に対する葬送か? トマーシュの顔は涙で濡れている(3枚目の写真)。トマーシュが草の上に横たわって悲しんでいると、祖父が近寄ってきて、「トマーシュ、おいで。家に戻ろう」と声をかける。トマーシュは、もっと現実的だ。「家って? バラドールは、新しい馬飼いを雇うから、僕たちは物乞いになるんだ!」。一方、城では、イーヴェルの兄グスタウが、狩猟犬ペルンの訓練をしている。そして、その成果として、領主の前で兎を捕まえるところ見せる。領主は、「よくやった、ペルン」と手を叩いて犬を褒める。犬の担当は兄なのに、イーヴェルは出しゃばって全体を仕切る。そして、「御前に、もう一つ余興を用意しております」と言い、囚人を逃げさせ、それをペルンに襲わせる。良識のある領主は、残酷な行為を止めさせる。イーヴェルは、「当然の 報いです」と抗弁。「水差しを壊しました」。「それだけ?」。「それを、餌の中に入れたのです。ペルンが死ぬところでした」〔口先人間なので、これも出まかせかもしれない〕。「罰は必要だがやり方が違う。法に従え。一晩首枷で晒(さら)し、20回棒で叩く」。
  
  
  

家に戻った祖父は、外出の準備をする。結った髪の乱れをロウソクの火で整えながら、「わしを、憶えておられるはずじゃ。狩で、偶然お会いした時、お辞儀したわしに、手を振って下さった。覚えておられるじゃろう。わしらを、乞食にはなさるまいて」と、楽観的、かつ、現状認識に欠けた発言をする。トマーシュとアガータは、そんな言葉など聞いていない。トマーシュの着るダブダブの上着を、アガータが縮めようとしているのだが、服の中にイタチがいて、アガータの指に噛み付いたのだ。「また、ケダモノが…」。トマーシュは、ニコニコしているだけ(1枚目の写真)。アガータは、「自分で やりなさいよ!」と言って、出て行ってしまう。「何を、やらかしたんだ?」。「何も」〔確かに、トマーシュ本人は何もしていない〕。そして、「お爺ちゃん、僕も連れてって」と頼む。「城へか?  ダメだ。バカやって、危険な目に遭うだけだ」。「フォルミナに会いたい」。「何で?」。「一緒に踊りたい」(2枚目の写真)。「近寄る事すらできまい。万一できても、殿様に死刑にされちまうぞ」。一方、城では、領主が、長女の夫〔跡取り〕と剣術の練習。問題なく勝った後で、召使に、「癒しの泥を持って来させろ。昨夜から背中が痛い」と命じる。そして、長女に、「お前の夫は弱いな、ソフィア」と言い、「弱くても、愛は 変わりません」と反駁される。そして、妹のフォルミナには、「お前には、もっとマシな夫を選んだ」と言い、「オストリクと、結婚しろ」と命じる。「結婚など早過ぎます」。「まず、婚約するんだ。誕生日にな」。「でも、それ、明日ですわ。前に、お会いしたかしら?」。「もちろん。ドナ卿と、結婚契約を交わした日だ」。「いつですか?」。「お前は2歳で、オストリクは4歳 だったかな。彼が、あっかんべしてな、お前は、銀のスプーンを投げつけた」。その後の会話の中でヴァガンの話が出てくる。「ヴァガンは どこに?」。「知らんな。出てったから。一度、彼を怒らせた… 悪かったな」。
  
  

城門には長い列ができていた。入口には係官が立っていて、「贈り物を渡してから、門に入るように。フォルミナ様は、心から感謝されておられる」と告げている。今日は、姫の誕生日、プラス、婚約の日なので、いつと違って、贈り物なしには入れてもらえない。手ぶらできた祖父は、トマーシュに、「贈り物を持っとらんから、中に入れん」と言う。しかし、トマーシュは、ちょうど通りかかった “穀物袋を乗せた荷車” に手を置き、「お爺ちゃん、行くよ」と誘う。穀物袋の献上に同行してきた息子と祖父になりすましたのだ(1枚目の写真)。無事門をくぐると、トマーシュは袋の上にいるネズミを見つけ、そっと手に取り、「城に入りたいのか?」と声をかけ、肩に乗せてやり、「一緒だぞ」と言う(2枚目の写真)〔ネズミの訓練は、さぞや大変だったに違いない〕。この門より中の場面は、オラヴァ〔Orava〕城。スロバキア北部にある13世紀の城。この城には、残念ながら行ったことがない。いっぱい動画があったのでベストのものを紹介すると→(https://www.youtube.com/watch?v=hFx8n6p86Q0)。ヨーロッパの中世の城は好きなので少しは訪れたが、はっきり言って、こんなに “カッコいい” 城は見たことがない。もっと前に知っていたら、必ず行くんだったのにと地団太を踏ませる素晴らしさだ。
  
  

トマーシュの興味を最初に引いたのは首枷をはめられた男。前まで行くと、「ここで、何してるの?」と訊く(1枚目の写真)。「日光浴さ、バカたれ。とっとと失せな、捕まるぞ」。「何やったの?」。「水差しを壊した。それだけ」。「水差し1個で首枷だって?  誰の命令なの?」。「誰だと思う?  領主様さ」。それは、トマーシュの思っていた領主像とは違っていた。そこで、「バラドールって、そんな…」と言いかけ、祖父に口をふさがれる(2枚目の写真)。「何度 言わせる?  バラドール様のお城だぞ! ここで、呼び捨てにするとは! 縛り首になりたいか?」。そこに、イーヴェルが様子を見に来て、祖父を見つける。「あんた、牧場のメトドか?」。「あんたはイーヴェルだ。第二御者の…」。「昔はな。今はバラドール様の鷹使いだ。ここ来た目的は?」。「わしらは、バラドール様に おすがりに来た」。イーヴェルは祖父に、「あんたに、何か してやれるかも…」と調子のいい嘘を言い、どこかに連れて行く。
  
  

首枷をはめられていた男の刑罰が始まる。役人が来て、「法に従い、罪人は20回棒で叩かれる」と宣告する。処刑人が1発叩き、男は悲鳴をあげる。可哀相に思ったトマーシュは、ネズミに、「噛みついて」と声をかけ、処刑人の背中に投げる。ネズミは、顔を覆う布の中に入って行き、首に噛み付く。処刑人が痛くて騒いでいる間に、トマーシュは首枷台の下に潜り込んで男の側に出ると、両足の鉄枷を外し、次に腕枷を外す(1枚目の写真)。男は逃げ出し、混乱に乗じて城門を突破する。一方、首枷台の下のトマーシュは、大任を終えたネズミをそっと捕まえると(2枚目の写真)、「よくやった」と撫でてやる。この時の笑顔は、自然で とてもいい。
  
  

お腹が空いてきたトマーシュは、鶏の丸焼きを買った男の前に行く。「欲しいのか?」。「うん」。男は、背後の塔のを指差し、「あそこの鐘を鳴らせたら」(1枚目の写真、矢印は指の示す方向、男の左にいるのは、鶏の丸焼き屋)「脚をやろう」と言って笑う。「いつ 鳴るの?」。「何年も鳴っとらん。“舌” がないからな」〔日本の鐘と違い、内部にぶら下げた舌(ぜつ)の振動で音が出る〕。トマーシュは、男から離れると、ネズミに「脚は、いただくぞ」と話し(2枚目の写真)、誰もいない隅まで行くと、投石紐に石を置いて鐘を見る(3枚目の写真、矢印は石)。そして、見事に石を鐘に当てる。その時、中に隠れていた白い鳩が逃げ出し、羽が一枚宙に舞う〔伏線〕。トマーシュは、再び男の前に行き、「鳴ったよ」と言う。「運のいい物乞いだな。持ってけ」。トマーシュは獲得した脚にかぶりつく。その脇を、さっきの羽が舞って行く。その時、「ドナ伯爵様の御一行である。道を空けよ!」という声がかかる。一行の中には、フォルミナと婚約するオストリクもいる。
  
  
  

トマーシュが、奥に止まっていた荷馬車に乗って行列を見ていると、御者が、横にいた女性に、「フォルミナ様に ぴったりだ」と話す。フォルミナと踊りたくて城に来たトマーシュは、さっそく、「フォルミナさん、知ってるの?」と尋ねる。「もちろん。泥を、納めてるからな」(1枚目の写真)。トマーシュは、大樽の中の泥を手に取ると、「こんなの… フォルミナさんに? 何するの?」と訊く。ここで、イーヴェルに連れて行かれた祖父の顛末が分かる。イーヴェルはすぐに祖父の持ち物を検査する。ヴァガンからの告発状を持っているに違いないと勘違いしたためだ。それを知った祖父は、「ヴァガンと比べたら、お前など ただのクズだ! ろくでなしのペテン師 野郎!」と、本当のことを言う。一方、ドナ伯爵は、山のような婚約記念品を、領主バラドールに贈る。泥の続き。御者は、「治療用の泥だ」と説明する。「熱を冷まし、疫病から身を守り、気分は爽快… 殿様は、スープみたいに飲んでおられる。腸もきれいになるしな。暖めた泥の中に、何時間も座っておられる」。「フォルミナさんも?」。「まさか。まだ、お若いだろ」。ここで、城主の宴会場へ。フォルミナは、父の領主に「ダンスをするはずでは?」と訊く。音楽の演奏が始まる。オストリクの母は、「ダンスを申し込みなさい。待たせないで。あなたの義務よ」と催促する。オストリクはフォルミナの前に行き、「もし、よろしければ、最高の踊り手ではありませんが、義務は、義務です」と、母の言葉をつい口にしてしまう。それを聞いたフォルミナは、「義務ですの? 率先して来られたのかと」と問う。「ええ、もちろん。でも、お食事中ですし…」。「いいえ、もう 済みました。あの… あなたに、スプーンを投げつけたなんて信じられます?」。この言葉に動転したオストリクは、ダンスを始めず、席に戻る。三度目の泥。御者は、トマーシュに、「何しに 来た?」と訊く。「踊るんだ。フォルミナさんと」(2枚目の写真)。「たんと待つんだな。俺も、客が帰るまで待つんだ」。「どうして、こんなに臭いの?」。「臭けりゃ臭いほど、よく効くんだ!」。ここで、ずい分前の鳩の羽が生きてくる。空中を漂っていた羽が辿り着いた先は、うたた寝している兵士の鼻。兵士はくしゃみをし、落ちたヘルメットが、立てかけてあった槍をなぎ倒し、キャベツの箱を直撃、キャベツが道に転がり出る。それにつまづいた男が、鶏の籠にぶつかり、飛び出た鶏が、“3本の火の棒をジャグリングしていた曲芸師” の火の棒に当たり、棒はワラの中に落ちて発火、その火に驚いた馬が暴れ出す。お陰で、御者と大樽の間に座っていたトマーシュは、大樽の泥の中に真っ逆さま(3枚目の写真、矢印)。
  
  
  

この映画のDVDには、いくつかメイキングが入っている。「泥は、芝土と水の混合物だった」「トマーシュは、最初、泥が嫌でたまらなかった」。誰でもそうだろう。この不安そうな様子は、左上の写真。「最後には、トマーシュは、勇敢に泥の中にドボンと落ちた」「ヘドが出そうに見えたが、誰にとっても始めての経験だった」。頭から突っ込み、半身を起こしたところが、右上の写真。泥から出てきたトマーシュは拍手で迎えられる。上半身裸になったところが、左下の写真。この後、トマーシュは、まず髪をきれいに洗い、タオルで髪をぐるぐる巻きにした後、上半身の泥をホースで洗い落とす。水なので、如何にも寒そうだ。上半身が終わると、パンツ1枚になって、下半身の泥を洗い落とす。最後は、髪をドライヤーで乾かして終わり(右下の写真)。「結局は、トマーシュは、泥風呂が好きになった」。落ちるだけなら、スタントでもいいと思うが、それは、2日目に備えるための予行演習だった。


止まらなくなった馬は、泥の大樽を牽いたまま宴会場に突入する。そして、宴席の前で車輪が壊れ、大樽が横倒しになり、中に入っていたトマーシュが泥と一緒に投げ出される。泥は、列席者の顔や服にも飛び散る。泥まみれになったトマーシュを見て、フォルミナは思わず笑う。バラドールは、責任が全くないのに、トマーシュに向かって、「わしの泥だ」と睨みつける。それを見て、小さな子を不憫に思ったフォルミナは、泥の中に平気で入って行くと、トマーシュに、「望みは?」と尋ねる。「フォルミナさん?」(1枚目の写真)。「ええ」。「あめでとうを言いに… 僕も、今日が誕生日なので」。「嘘じゃない?」。「誓って」。「じゃ、一緒に踊りましょ」。そう言うと、泥だらけのトマーシュの手を臆せず取って、泥の中から立たせる。そして、楽師に「音楽を」と命じる。ここから、フォルミナとトマーシュのダンスが始まる。最初はおずおずとしていたトマーシュだったが、フォルミナが楽しさ一杯なので、つられて嬉しそうにくるくると回る(2枚目の写真)。「蛙みたいに、飛びましょ」。2人は、泥の上で飛び跳ね、泥がさらに飛び散る。我慢の限界を超えたバラドールは、宴席のテーブルの上に立つと、「やめよ!」と楽師に怒鳴る。そして、泥の上に飛び降りると、蛙飛びをしていたトマーシュの服をつかんで立たせ、「名は?」と質問する。「トマーシュ」。「何か、忘れとるぞ!」。「トマーシュです、お殿様」「狼に殺された馬飼いの息子です。土地をいただけないか、お願いに来ました、お殿様」。「お前は、娘の祝典を台無しにした上に…」。フォルミナは、すかさず助けに入る。「違います。私の望みに、この子が応えただけです。それに、『楽しめ』と言われたでしょ」。「言ったとも。だが、こんな意味ではない」。しかし、根は公平なバラドールなので、「では、運を試してやろう」と言い出す。テーブルに置いてあったケーキの上のバラの蕾を1つを手に取り、トマーシュに見せながら、「バラを選んだら、良い土地を与えよう」。そう言いながら、蕾をフォルミナに渡す。「外したら、鞭打ちだぞ」。その間に、フォルミナは、こっそり、もう1つ蕾を手に取る。そして、両手に蕾を握る。「さあ、選べ」。トマーシュは右手を選び、フォルミナは右手を開き蕾を見せる(3枚目の写真)〔左手は握ったまま〕。「腕白が、幸運をつかんだ。後は、書記の出番だ。行け。もう、お前の顔は見たくない」。オストリクは、フォルミナに、「踊って いただけますか?」と申し出て、「喜んで」と言われる。
  
  
  

2つ目のメイキング。「2日目で、トマーシュは泥に慣れていた」。左上の写真がそうだが、躊躇しているように見えなくはない。しかし…。「彼は、喜んで始めた」。確かに、右上の写真では、積極的に頭から泥を被っている。左下の写真では、全身を泥の地面になすりつけている。子役とはいえ、俳優である以上 こんなことまでさせられる。しかし、前の節で、顔のアップがあったように、スタントダブルを使うわけにはいかない。右下の写真は撮影風景。「フォルミナとトマーシュのダンスとステップで、泥が陽気に飛び散った」「アシスタントが、泥を俳優〔バラドール達〕に楽しそうに投げつけた」。1つ前の “樽にドボン” のシーンに比べると撮影時間もかなり長かったろうから、全身泥まみれのトマーシュが快適だったとは思えない。「トマーシュにとって、最後は、泥風呂より日光浴の方が良かった」というのは、正直なところであろう。


トマーシュは、所定の手続きを終え、きれいな服も支給され、戻ってくる。祖父は、暗くなって1人だけになっても、孫を待っていた(1枚目の写真)。「お爺ちゃん?」。「トマーシュ、何を着とるんだ?」。「殿様から、土地をいただいた。踊ったんだよフォルミナと」。「何だと? 魔法にかかったみたいじゃな」。翌日、トマーシュは、上等の服のまま “側方倒立回転” を野原で連続させる。大した運動神経だ。最後は、前方に体を丸めてくるくる回り、仰向けになって空を見上げる。鷹の鳴き声が聞こえ、トマーシュは眩しい太陽を遮って空を見上げる。そして、「お前は高く飛べるけど、僕はフォルミナと 踊ったんだぞ!」と自慢する(2枚目の写真)。その時、狩猟犬の吠えるのが聞こえる。昨日、助けたばかりの “首枷男” が、イーヴェル、グスタウらに追われている。先頭に立っているのは、獰猛な犬ペルン。丘の上に立ったトマーシュは、「やめろ!」と叫ぶ。「放っとけよ!」。しかし、イーヴェルは、兄に「放せ!」と命じる。良識の残っている兄グスタウは断るが、イーヴェルはペルンの首輪から紐を外し、「捕まえろ!」とトマーシュにけしかける。トマーシュは、犬に対して唸り声を出し、犬を止める。そして、腕を伸ばすと指を握り、それを180度回転させる(3枚目の写真)〔仰向けになれという命令〕。ペルンに追いついたイーヴェルが何を言っても、ペルンは動こうとしない。代わりに、腹を上にして寝て、4本の脚を無抵抗に折り曲げる。イーヴェルは、「くそガキめ、後悔させてやる!」と罵る。城に帰ると、イーヴェルがバラドールに嘘を並べる。「ペルンを訓練しておりましたら、お嬢様と踊ったガキが飛び出てきて、こいつに、何かしたんです」。「こんな奴は役に立たん。始末しろ」。フォルミナは、犬が可哀相なので、もらい受ける。バラドール:「トマーシュの奴は、わしが踊らせてやる」〔フォルミナと踊ったことに引っ掛けて言った言葉。鞭で叩いて痛さで飛び跳ねさせるという意味〕。これで、トマーシュの幸運は、1日で吹き飛んだ。
  
  
  

家に戻ったトマーシュは、ずっと そわそわしている。それを見た祖父は、「何を、心配しとる?」と訊く。「お爺ちゃん、鞭打ちって痛い?」。「ああ」。「ペルンに手を出したら、鞭打ち何回かな?」(1枚目の写真)。「鞭打ちじゃ済まんな。生きたまま火あぶりだろう」。トマーシュの心配はますます募る。夜、寝床に入ってからも心配で眠れない。そのうちに、馬がいななき、犬の吠え声がいつもと違って聞こえる。トマーシュには、その吠え声で、敵が近づいてきたことが分かる(2枚目の写真)。そこで、寝床から起きると、城に行く時に着ていった粗末な服をまとうと、窓から逃げ出す。そして、馬の囲いから、一番上等の、オクトリク用の鹿毛の馬を出し、引いて行く(3枚目の写真)。囲いから離れると、トマーシュは馬に跨り 走らせて逃げる。それからしばらくすると、祖父が、犬の鳴き声と足音に気付き 小屋の扉を開ける。そこに現われたのは、10名以上の兵士。隊長が、「孫を捕らえに来た」と告げる。「ペルンに魔法をかけおった」。しかし、兵士が捜しても、部屋の中はもぬけの殻。
  
  
  

トマーシュは、遠くに逃げる前に、危険を冒して城の丘の真下まで行く。馬に、「待ってて」と言うと、馬から木の枝に直接上がり、さらに上に登る(1枚目の写真)〔身体能力はかなり高い〕。上まで登ると、フォルミナが窓から外を見ているのがはっきりと分かる。トマーシュは、憧れるようにその姿をじっと見つめる(2枚目の写真)。フォルミナが窓を閉めて姿を消すと、トマーシュも木を降りて再び馬に跨る。「あんな素敵な女性、見たことあるか?」。馬が首を振る。「そうとも。初めてだ」「行こうか」。
  
  

翌朝、トマーシュは、渓流の脇に作った雨をしのぐ仮設のねぐらで目を覚ます。服が汚れないよう、上半身は裸で寝ている。トマーシュはねぐらから外に出て、辺りを見回す(1枚目の写真、矢印は雨覆いの針葉樹の枝を支えている棒)。トマーシュは、そこから川に飛び込んで体を洗う(2枚目の写真)。しばらくすると、魚を手で捕まえる。その時、空を舞う鷹の鳴き声が聞こえたので、トマーシュは口笛を吹き、魚を見せて鷹を呼ぶ(3枚目の写真、矢印は生きた魚)。鷹が飛んできて、魚を獲っていく。服を着たトマーシュは、丸太の上からジャンプして馬に飛び乗る(4枚目の写真、矢印はジャンプの方向)〔ここも、感心してしまう〕
  
  
  
  

トマーシュが林の中の急斜面(40度)を、馬を引いて登っていると、大木の下に来た時、突然足にロープがからまって逆さ吊りにされる。ヴァガンはロープを固定すると、トマーシュの前に来て、「何してる?  巣を荒らしに来たのか?」と強い調子で訊く。「盗むもんか!」。「バラドール卿の 一番いい馬に乗っててか?」(1枚目の写真)「正直に話せ!」。「ペルンを、無害な犬にしただけなのに」(2枚目の写真)「捕まえようとしたから、馬を借りて兵隊から逃げたんだ」。ヴァガンは、自分の犬に、「聞いたか、タタール。ペルンを変えてしまい、馬を盗み、兵隊に追われてるそうだ。名高い盗っ人を捕まえたって訳だ。皮を剥いで バラドールに送ってやろうか。礼をくれるかもしれん」と怖い冗談を言うと、ニッコリ笑ってロープを切る。トマーシュは地面に落下する(3枚目の写真、枯れ葉まみれ)。逆さ吊りの限界は2時間なので、撮影に要した時間を考えると、泥まみれより大変だったろう。ロープから落ちる場面も痛そうだ。
  
  
  

この部分のメイキングで様子がよく分かる。「トマーシュは、ヴァガンの罠に捕まる。木から逆さ吊りにならないといけない」。最初の撮影では、トマーシュは怖がり、ロープをつかんだまま(上体を起こして)、引っ張り上げられる〔ロープはアシスタント達が引く〕。2回目は、映画に映っているように、きれいに逆さ吊りになるが、今度は、ロープが足首に食い込んで痛い。そこで、逆さ吊り状態での撮影の際は、「ロープが足に食い込まないよう、足首にはタオルが巻かれた」(左上の写真)。そして、アシスタント達がロープを引いて宙吊りにする(右上の写真)。そして、足首の映らないクローズアップでの撮影が行われる(左下の写真)。「逆さ吊りにされた状態で、長時間の演技は簡単ではない」。そこで、カットが終わる度に、ヴァガンがトマーシュの体を持ち上げて、正常位に戻す(右下の写真)。「トマーシュは、大変な勇気を見せた」。それでも、表情は苦しそうだ。子供にとって、苛酷な撮影だったことは確か。


ヴァガンは、「岩山にようこそ。私は、ヴァガンだ」と、トマーシュの来訪を歓迎する。「バラドールの、鷹使いの長だね」(1枚目の写真)「あなたのことは詳しいよ」。「誰に聴いた?」。「鳥から」。ヴァガンは信じないが、笑ってトマーシュを馬に持ち上げて乗せる。「行くぞ」。開けた丘の斜面に、大きな丸太小屋が建っている。ヴァガンは、その前まで連れて行くと、「着いたぞ、降りて」と言う(2枚目の写真)。トマーシュが降りると、ヴァガンは馬を隠しに行く。彼が戻って来ると、小屋から、「食事を どうぞ」と言う声が聞こえる。トマーシュは、嬉しそうに、その “首枷男” に寄って行くが、男は、「久しぶりだよな〔Už dlho sme sa nevideli, čo〕?」と言う〔この台詞、よく分からない。彼が、ペルンから助けてもらったことを知らなかったとしても、棒叩きから助けてもらったのは3日前だ。「久しぶり」というのは変だし、「この間は ありがとう」ぐらい言っても罰は当たらない〕。「ここでは、調理役?」。「昇進だ。城じゃ、ゴミ箱あさりだったから」。そして、昼食が始まる(3枚目の写真)。
  
  
  

すると、ヴァガンの犬が吠える。トマーシュは、一番に立ち上がると、「兵隊だ!  まずい!」と叫ぶ。ヴァガンは、見つかってはマズい2人を小屋の奥に行かせ、上から何枚も毛皮をかける(1枚目の写真)。騎兵の一団がやってくる。小屋の階段の上に呑気な感じで座ったヴァガンは、「昼食に 来たのか?」と隊長に訊く(2枚目の写真)。「誰がいる?」。「ズボラと、私と、動物達だ」〔スボラは、城にいた乞食で、誰かに密告を恐れて舌を切り取られた〕。「中を調べるぞ」。中に入ると、取り分け皿が4枚残ったまま。隊長は、「貧乏人が2人で、4皿食べるのか?」と疑い、奥を捜そうとする。ヴァガンは、「そっちは やめとけ。フェロを起こす。食事前だから、飛び掛るかもしれん」と牽制する。「どんな奴だ?」。ヴァガンが、指笛を吹くと、小熊が箱から出てくる。少なくとも、“3人目” はいたことになる。「俺様が怖がるだと? 4つ目の皿は、誰が食べる?」。「ミショー」。「どんな奴だ?」。「フェロの親爺。怒りっぽい奴で、昨日、俺の犬を引き裂いた。じゃあ、起こそうか?」。そう言うと、ヴァガンは木のスプーンで木の椀を叩き、「ミショー」と呼ぶ。奥に隠れていた2人が、唸り声を上げて毛皮を持ち上げる(3枚目の写真、黄色の矢印は木のスプーン、赤の矢印は持ち上がる方向)。隊長は、「いや、急いどるから、これで」と、慌てて退散する。
  
  
  

トマーシュが、馬に乗って林の中を進んでいる。手には、マーガレットに似た花が握られ、花びらを1枚ずつ取っている。「花占い」だ。すると、途中で、「花占い」の相手がいるのを見つけ、木に隠れて様子を伺う(1枚目の写真)。あまり嬉しそうでないのは、オストリクが一緒だからだ。「こんなに遠くまで… 夜明け前に、お発ちに? なぜですの?」。「お目にかかりたくて」。「なぜ、会いたいのですか?」。「それは、あの子を助けてやった優しさに、心を惹かれたからです」。「私が? あの子は 正しい手を選んだだけですわ」。「じゃあ… もう片方の手には?」。「ご覧になったの? 目の鋭い方ね」(2枚目の写真)。「日没までには 帰りませんと。両親は、結婚前に会うのを好のみませんので。今日は、狩に出た事に… 嘘を付いて参りました」。「私なら、許して差し上げますわ」。「また、すぐに、お会いしたいのですが」。「お勧めできません。馬が疲れてしまいますもの。でも、明後日でしたら… 私は、この辺りにおります」。愛しいフォルミナが、完全にオストリクに心を奪われている姿を見たトマーシュは、野原に横になって涙をぬぐう(3枚目の写真)。
  
  
  

しかし、それで諦めたわけではない。フォルミナが馬に乗って帰途につくと、こっそり崖から近づいたトマーシュが、フォルミナの後ろに飛び乗る(1枚目の写真、矢印)〔確かに、カッコイイ〕。いきなりの出来事だったが、フォルミナは冷静に、「トマーシュ!  正気なの? ここは、お城の近くなのよ!」と心配する(2枚目の写真)。「捕まれば、鞭打ち50回よ! 死んじゃうわ!」。2人は、城が遠望できる場所で馬を降り、野原に座って話し合う。「聞いて… 僕の成長、すごく早いから、すぐに大きくなって 父さんのように強くなる。もし、あなたが待っててくれたら、僕は…」(3枚目の写真)。「トマーシュ、分かってる…」。「オストリクさんは 別の女性を見つけるよ… 僕、手伝うよ」。「見たのね?」。「うん」。「じゃあ、知ってるでしょ、私の気持ち。彼を愛してるの。夫になる方と恋に落ちたの。私、幸せよ。こんな事ありえないもの」。「幸せで よかったね」。フォルミナは、身分違いのことなど全く言わない。子供としてのトマーシュが好きな、優しい女性だ〔フォルミナ役のKlára Jandováは、1979.11.15生まれ。ブラノとの年齢差は6歳弱。もう少し年下の俳優を使っていれば、“1歳違い” という恋に現実味があったのに〕
  
  
  

小屋に戻ったトマーシュに、鷹を腕に乗せたヴァガンは、「何ヶ月も訓練してきたんだが、どうも気紛れなんだ」と話す。そして、訓練の場。そこには、4人全員が揃っている。全くやる気のない鷹を見て、トマーシュは呆れてヴァガンの顔を見る。ヴァガンが笛で呼んでも、飛んでこようともしない。仕方なく、脚に結んだ紐でたぐり寄せる。「ひどいもんだ」。その時、犬が吠える。そして、キツネに向かって行く。ヴァガンは、「止まれ!  戻れ! あの狐、狂犬病だ。殺そう。動物達に感染してしまう」と言う。トマーシュは、ヴァガンの鷹を腕に乗せると〔鷹の爪から守るための革手袋をしていないため、手を袖の中に入れて とまらせている〕、ヴァガンが、「何 するんだ?」と訊くのを無視し、鷹を放つ(1枚目の写真、飛び立った直後)。鷹は、キツネを殺す。そして、トマーシュが笛を吹くと、飛んで戻ってくる(2枚目の写真、腕にとまる直前)。メイキングを見ると〔トマーシュのシーンはなく、ヴァガンのシーンだが…〕、鷹は5メートルほど離れた脚立の上から、鷹の飼育者が飛ばしている。ヴァガン役のWaldemar Kownackiは革手袋をはめ、それでも何度か失敗する。革手袋なしで、ここまで自然にできるのは大したもの。ヴァガンは、「どうやったんだ? 手は尽くしたのに…」と驚く。「『鷹がロバの真似なんて〔aby sa nechoval ako somár, ked' je sokol〕』、と言ってやった」(3枚目の写真)。ヴァガンは、トマーシュが本当に鳥と話せることが分かる。「今から、君が訓練するんだ」。
  
  
  

トマーシュが一番にしたことは、自分の無事を家族に知らせること。左の襟に刺繍された「T」の字の部分をナイフで切り取ると(1枚目の写真、矢印はナイフ)、鷹の趾(あしゆび)に持たせて放つ〔この時には、腕に革を巻いている〕。鷹はトマーシュの家に飛んで行き、布を晒している妹のアガータの横に 襟を投げ、そのまま飛び去る(2枚目の写真、右の矢印の先の白いぼやけた物が投下された襟、左の矢印が鷹の進行方向)。アガータはすぐに襟を拾い、トマーシュが無事だと悟る。その頃、祖父は、城への坂道をヨタヨタと登っていたが、その上をさっきの鷹が、一声鳴き声をあげて飛んでいく。鷹は、待っていたトマーシュの腕にきれいにとまる(3枚目の写真)。羽を広げた姿が美しい。鷹使いトマーシュ、そのものだ。この映画のベスト・シーン。
  
  
  

ヴァガンは、鷹を持って領主バラドールの城に出かける。行く前に、トマーシュに、「お爺さんの家に寄って行こうか?」と訊くと、「必要ないよ。お城で会えるから」との返事。「何で、分かる?」。「鷹が 教えてくれた」。城についたヴァガンは、召使の制止を振り切り バラドールの部屋に入る。そこには、トマーシュの祖父が来ていた(祖父は、「孫の事で、お願いに 参りました」と頼むが、「まず、トマーシュの居所を言うんだな」と言われてしまう。「存じません、御前」。「知らんだと? 信じられるか!」)。そこに、ヴァガンが勝手に入って来て、「信じるべきです、御前」と口を挟む。「メトドは、正直な男です」。自ら立ち去った男の 突然の出現に驚いたバラドールに、ヴァガンは、「鷹を持って参りました、御前」と言う(1枚目の写真)。「何故、持って参った?」。「イーヴェルが 私から盗んだ鷹より 上等です」。その場にいたイーヴェルは、「嘘つき! 証明できるか?」と開き直る。ヴァガンは、ナイフを投げた時にできた傷を指し、「頬の傷を、どう説明する?」と訊くが、なぜか、バラドールは、イーヴェルによる盗みの話には関心がなく、トマーシュの祖父を、「出頭させぬと 土地を取り上げるぞ。先に逮捕したら 厳罰に処してやる」と脅す。バラドールは鷹が気に入り、「早速、試してみよう」と喜ぶ。イーヴェルは、すぐに対策を取る。兄のところに行き、「塔に鼠がいたな。殿の目には入れられん。鼠の毒は、どこだ?」と訊く。「そこだ。注意して使え」。イーヴェルは、持参した肉片に殺鼠剤を振り掛ける。そして、鷹のそばにいるヴァガンに見つからないよう、鷹の籠の真上から毒肉を下ろして食べさせる(2枚目の写真、矢印)。その後、バラドールは部下を引き連れて鷹狩りに出かける。犬が一斉に放たれ、ウサギが追い出されてくる。しかし、そのウサギを見ても、鷹は飛ぼうとしない。そして、あらぬ方に低空飛行していき、そこで息絶える。バラドールは、「わしを、バカにする気か? 何だ、あのバカ鳥は! 兎に驚いて、ショック死だと!」と、表面の出来事だけ見て怒鳴る。城に戻ったヴァガンは、イーヴェルの兄を、「私の鷹に毒を盛ったな?」と非難する。「俺は何も知らん」。「では、弟のイーヴェルは どうなんだ?」。「何も見てない」。「見たくなかった からだろ! イーヴェルに、私の邪魔はやめろと言っておけ。頬の傷が増えるぞ」(3枚目の写真)。何れにせよ、後の祭り。
  
  
  

トマーシュが、いつもの渓流の岸に座っていると、鷹の鳴き声が聞こえる。鷹は、わざとトマーシュの頭上を飛ぶ。意味が分かったトマーシュは、すぐに後を追いかける。トマーシュが 枝に止まった鷹に追いついた時、彼は鷹の首にかかった王の紋章に気付く。マチエ王の鷹だ! 鷹は、トマーシュが来たと分かると、すぐに飛び立つ(1枚目の写真、矢印は王の紋章)。こうして、鷹は、トマーシュを導いていく。トマーシュが、終着点で見たものは、高い木の上に作られた鳥の巣にある卵を盗もうと、木を登っているイーヴェルだった(2枚目の写真)。マチエ王の鷹は、それを教えに来たのだ。トマーシュは、「おい、巣から手を離せ!」と怒鳴る(3枚目の写真)。
  
  
  

イーヴェルは無視して巣に手を伸ばす。トマーシュは、投石紐でイーヴェルの肩に石をぶつけ、悪漢はそのまま、あちこちにぶつかリながら地面まで落下する。トマーシュが前に行くと、イーヴェルは、「後が怖いぞ。俺はバラドール様の鷹使いだ! 命令を、妨害しやがって」と文句を言う。怒ったトマーシュは、「嘘つき!  卵 泥棒め!」と怒鳴る。「でたらめだ」(1枚目の写真)「腕を痛めた。起こせ!」。真の悪漢に慣れていないトマーシュが、その嘘を信じて手を貸すと、顔を殴られて気を失う。一方、ヴァガンは死んだ鷹に小さなお墓を作っている。そこにやって来たのが、トマーシュを背負ったイーヴェル。睨み付けるヴァガン。イーヴェルは、「こいつは、卵泥棒だ」と嘘をつく(2枚目の写真)。「ペルンの件で逮捕命令も」。ヴァガンは、「降ろせ!」と怒鳴る。イーヴェルがトマーシュを地面に置くと、手を縛ったロープを ナイフで切る。「助けると、バラドール様に罰せられるぞ」。「黙れ、イーヴェル! よく聞け! お前は 鷹に毒を盛った。弟子として仕込んでやったのに、卑劣な泥棒に成り下がりおって」。そこまで言うと、イーヴェルが肩からかけていたバッグを引きちぎり、起き上がったトマーシュに中味を見せる。「オオタカ、ハイタカ、ハヤブサ… 鷹使いが巣を荒らすとは」(3枚目の写真)。イーヴェルは、走って逃げて行く真っ最中。トマーシュは、置いてあったクロスボウをつかむと、「悪者を止めないと!」と言ってヴァガンに渡す。しかし、ヴァガンは、「撃ちたいなら、お前が撃て」と言うので、イーヴェルはそのまま逃げおおせる。
  
  
  

「あいつは、鷹に毒を与えた。あれほどの鷹は、もういない」。トマーシュは、「ほら、あそこに いるじゃない」と、空を舞うマチエ王の鷹を指差す(1枚目の写真)。「あれは、 鷹の王様だ! あの鷹さえあれば、バラドールは許してくれる」。「城だって、くれるよ」。そう言うと、トマーシュはヴァガンの腰ベルトから革手袋を取ると左手にはめ、空を見上げて口笛を吹く(2枚目の写真)。トマーシュと信頼関係ができていたマチエ王の鷹は、口笛に応えて降下し、トマーシュの手にとまる(3枚目の写真、矢印は王の紋章)。ヴァガンが敬意を表して帽子を取ると、鷹はわずかに頭を下げる。
  
  
  

バラドールの城での一コマ。イーヴェルは、「御前、オストリク様の鷹を訓練致しました」と、誇らしげに告げる〔どうせ、ロクな鷹ではない〕。「望みを申せ」。「私めを、鷹使いの長に」〔ということは、威張っているくせに、まだ長にはなっていない〕。「考えておこう」。イーヴェルが、いつものように、「ご存知ですか?  ヴァガンめは…」と言い始めると、「お前は、悪口しか言えんのか?」と嫌がられ、ちょうどバラドールの相手をしていたオウムを頭の上に乗せられ、周りから失笑を買う。それが影響したのかどうかは不明だが、イーヴェルは、最大・最悪の陰謀に走る〔実は、ここから先は あまり好きではない。一介の鷹使いが、自分の利益のためだけに、封建領主に対し ここまで大それた不遜な行為に走ることは、15世紀には あり得ないからだ〕。イーヴェルは、結婚式にやってくるドナ伯爵の一行を途中で待ち構える(1枚目の写真)。馬に跨って行列と併進していたオストリクは、遠くで変わった動物の鳴き声を聞き〔イーヴェルが発した〕、「馬を駆けさせたいのです。お城で会いましょう」と言い、正体を調べに行く。オストリクは、森の中に誘導される。そして、馬を置き、変な声のする方に、こっそりと近づいていく。すると、穴の中から覆面をした男が現れ、いきなり中に引きずり込まれる(2枚目の写真)。伯爵一行は城に着くが、当然、オストリクの姿はない。オストリクが連れ込まれた洞窟の中では、イーヴェルが火を焚いている。オストリクは、「何が、望みだ?」と訊く。反応はない〔声を聞かれたくない〕。オストリクは、縛られたロープから手を引き抜くことに成功する。そこで、「喉が渇いた」と嘘をつく。覆面をしたままのイーヴェルが、水の入った木の鉢を持って近寄ると、オストリクは自由になった手で覆面を剥がす(3枚目の写真、矢印はオストリクの手)。「見た顔だな」。イーヴェルは、「大失敗だったな。これで、殺すしかなくなった。俺だって、絞首台は嫌だからな」と言い出す。「なぜ こんな事をする? 何の積りだ?」。「あんたには関係ない。恨みを晴らしたいだけだ」。そう言うと、近くにあった大きな石をオストリクの足に叩き付ける。「俺が亡骸も発見するから、報奨金もいただきだ」。イーヴェルは、そのまま洞窟を出て行き、入口を木の根で塞ぎ、さらに、巨大な石を転がして その上に置き、絶対に中から開けられないようにする。城では、捜索に出した兵士から、「御前、どこにも お姿がありません」との報告を受け、「もっと大勢の兵士で、くまなく捜せ!」との命令が下る。洞窟の中では、オストリクが足を引きずりながら、穴の奥に進んでいくと、地下の川にぶつかる。
  
  
  

イーヴェルは、ヴァガンに復讐すべく、兵士を伴って小屋に行く(1枚目の写真、矢印はイーヴェル、階段の上にヴァガン、下にトマーシュがいる)。「オストリク様の捜索だ」。「何で、お前が?」。中に入っていったイーヴェルは、隠し持ってきたオストリクの拍車を取り出し、「証拠を見つけた。縛り上げろ。そいつらが犯人だ!」と宣告する。4人は、城まで連行される(2枚目の写真、矢印は拍車)。拍車を見たドナ伯爵は、オストリクの物だと確認する。イーヴェルは、「ヴァガンの小屋で見つけました。強奪して、殺したのではないかと思われます」と報告する。バラドールは、「ヴァガン! トマーシュ、覚悟しろ! オストリクは どこだ?」と強く問う。ヴァガン:「なぜ お尋ねに? 何も知りませし、殿からは ご不興を」。そこに、フォルミナが走って入ってくると、トマーシュの前に行き、「トマーシュ、オストリク様は どこ?」と尋ねる(3枚目の写真)。「泥の中かな」。「真面目に! 何か知ってるの?」。「放してくれたら捜してみる」。こんなやりとりでは話にならないので、バラドールは、「拷問部屋に連れて行け。吐かせるんだ」と命じる。どのくらい経過したのかは分からないが、審問官が報告に来る。「すべての罪状を、頑強に否定しました」。しかし、拍車の証拠は決定的だとみなし、「『命には命を』です。御前」と進言する。バラドールは、絞首台の用意を命じる。その頃、オストリクは、洞窟の中を流れる川の流れに沿って四つん這いになって進み、出口に辿り着いていた。しかし、傷付いた足ではどこにも行けない。
  
  
  

拷問部屋の中では、トマーシュが、両手を縛られて吊り下げられていた(1枚目の写真)。トマーシュは、壁際に現われたネズミを見つけると、口笛を吹き、縄を噛み切ってくれるよう頼む。靴の爪先は床についているので、ネズミはそこから上がり、腕の先端まで辿り着く。「急いでよ」(2枚目の写真)。ネズミは、さっそくロープを齧り始める。遂にロープは切れ、トマーシュは床に投げ出される(3枚目の写真)。ロープの先端を見たトマーシュは、「ありがとう」と ネズミにお礼を言う(4枚目の写真)。
  
  
  
  

その時、拷問部屋の天井近くにある覗き穴から、フォルミナが「トマーシュ」と声をかける(1枚目の写真)。「父上に頼んだけど、問答無用なの。助けて あげられないわ。あの方に何をしたのか、話してよ」。トマーシュは、「僕たちが殺したと思ってるなら、用なんかない」と反撥するが、ここから出ないと何ともならないので、拷問用の鞭を柱から外し、フォルミナの覗いている開口部の下にある横棒に先端を巻きつける。トマーシュは、3人に、「戻って来るから」と言うと、鞭をつかんで壁を登る(2枚目の写真、矢印)〔身体能力は本当に高い〕。横棒まで登ると、開口部をくぐって外に出る(3枚目の写真)。トマーシュは、フォルミナに、「オストリクさん捜してくる」と言うと、城を抜け出す。
  
  
  

トマーシュは、渓流まで辿り着くと、腕に布を巻きつけ、口笛を吹く。それに応えてやってきたのは、マチエ王の鷹。トマーシュは、「オストリクを捜して」と頼む(1枚目の写真)。これにはかなりの時間がかかる。それでも、鋭い鷹の目は、森の中にいるオストリクを見つけ出す。この長い捜索の間に、トマーシュはヴァガンの小屋まで行き、隠してあった馬に乗る。そのあと、映画では説明されないが、トマーシュは どこかで鷹と出会い、後は、その指示に従って、オストリクが動けないでいる洞窟の入口に向かう。馬が近付いて来るのを見たオストリクは、「助けて! ここだ!」と叫ぶ。トマーシュは、馬から降りて駆け寄る(2枚目の写真)。「大丈夫?」。「足が動かせない。よく 捜せたな?」。「僕じゃない 鷹だよ。飛びながら、『オストリク』って叫ぶんだ」(3枚目の写真)「それに 従っただけ。楽でしょ」。トマーシュは、オストリクに肩を貸して、びっこで歩かせる。「坊やは、鳥の言葉が分かるんだな?」。「人間の言葉よりもね、花ムコさん」。「どこかで会ったかい?」。「『泥の海』でね」(4枚目の写真)。「じゃあ… あの 小生意気な小僧か!」。「乗って」。「お尻を叩いてやりたいよ!」〔自分より先にフォルミナと踊ったから〕。「足が治ったら、やってみたら? 今は、おとなしくね。お城に急がないと」。
  
  
  
  

2人が無事馬に跨ると、トマーシュは口笛を吹き、待機していた鷹が飛んできて、腕にとまる(1枚目の写真)。一方、城では、処刑が始まろうとしていた。バラドールは、「この3名の罪人は、深い悲しみを与えた。ドナ卿、ドナ卿夫人、わが娘フォルミナ、そして、我ら全員に。その悪辣な行為に対し、絞首刑が宣告された」と発言する。一方、馬を駆けさせるオストリクは、「拍車が、唯一の証拠だって?」と呆れる。「審問官には、それで十分」。「そんな審問官は絞首刑だな」。そこで、オストリクが気付く。「待てよ」。「何?」。「もう一つある!」。「もう一つ?」。「拍車だよ! 2つある」。「で、僕には 鷹が」。さっそく馬を降りたトマーシュは、オストリクの左足に付いたままの拍車を外す。そして、鷹の趾(あしゆび)に持たせる(2枚目の写真、矢印は拍車)。「頼んだぞ」。鷹は城目がけて飛んでいく。そして、バラドールが、「刑を 執行せよ」と言った時、空中から放たれた拍車がバラドールの目の前に落ちる〔出来すぎのような…〕。バラドールは直ちに2つの拍車を比べ、2つが同じだと分かると、処刑を中止させる。
  
  
  

そこに、丘を駆け上がってきたオストリクが到着する。馬から助け降ろされたオストリクは、「その男だ! 私を 殺そうとした奴は!」と、イーヴェルを指す。バラドールは、審問官に、「危うく、無罪の人間を死刑にするところだった」と文句を言う。「イーヴェルの話では、あなた様のご希望かと」。「奴ではなく、法と良心に従うべきだった。そんな審問官は要らん。首枷台に行け」と命じる。トマーシュには、アガータが抱きつく。祖父は、「この家出坊主! わしに 薪を割らせおって」と文句を言う。そこに、バラドールがやってくる。「ペルンの件は許してやろう」。そして、馬を見て、「これは、わしの鹿毛じゃあるまいな?」と訊く。トマーシュは、「いいえ、今はオストリクさんのです」と、上手く言い逃れる。これには、反論の仕様がないので、「また、忘れとるぞ」と言い、トマーシュは、「御前様」と付け加える。トマーシュが、「おいで」と腕を出すと、そこに、マチエ王の鷹が舞い降りる」。その鷹を見たバラドールは、「『鷹の王様』 だな!」と驚く(1枚目の写真)。「手なずけたのか? 城を授ける約束だ。お前も城主だな」。トマーシュは、鷹を自由にさせておきたいので、「お城は要りません。一緒にいたいんです」と断る。「なら、わしの鷹使いの長にしよう」。「あなた様には、ヴァガンがいます。鷹は、狩に行かれる時に お貸しします」。ヴァガンのことを思い出したバラドールは、ヴァガンの前に行き、「ひどい誤解をしたな。罰を決めるがよい」と言う〔謝りはしない〕。「許してやります。ただ、ご領地で 二度と会いたくはありません」。一方、フォルミナは、「今度のこと、本当にありがとう、トマーシュ」と心から感謝する。「嬉しくて踊りたい気分ね。彼 できそうにないから、代わりに踊ってくれる?」と言うと、トマーシュはオストリクの手前もあるので、「絞首台の下では、ちょっと… 癒しの泥も ありませんし」と断る。オストリクは、その配慮にトマーシュの頭を撫でる(2枚目の写真)。フォルミナは、姉から結婚祝いにもらったネックレスを外すと、トマーシュの首にかける(3枚目の写真)。
  
  
  

家に戻ったトマーシュが、祖父のために大量に薪を割り終えると、そこに、フォルミナとオストリクの2人が馬に乗ってやってくる。何事かと思ってトマーシュが近づいていくと、オストリクが、「君を、迎えに来た」と言う(1枚目の写真)。フォルミナも、「私たちと、一緒に来ない?」と口を添える。「優秀な鷹使いが必要だ」。トマーシュは、祖父たちの方を振り返って見た後で、「考えてみます〔Rozmyslim si to〕。できれば、追いつきます」と答える(2枚目の写真)。フォルミナは、「できるだけ 早くね」と言い、2人は引き上げていく。トマーシュは、2人に付いて行ったのだろうか? 映画の最後は、マチエ王の鷹を手にしたトマーシュが丘から飛び上がるところで終わる(3枚目の写真)。トマーシュはマチエ王の鷹と一緒に残ることにしたのだろうか?
  
  
  

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